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2004.02.18
散歩 de 探訪 -街・たてもの 歩いて見える新発見- 「幕張ベイタウン」

vol.20 21世紀型住宅が都市をつくる「幕張ベイタウン」
JR総武線幕張駅より徒歩15分
JR京葉線海浜幕張駅より徒歩10分、北口より京成/平和交通バス ベイタウン行き5分
千葉県千葉市美浜区
(※来街の際は住民の方のご迷惑にならないようにお気をつけ下さい)

助手: この雰囲気なんですか〜!?まるでアメリカ西海岸みたいですね。
博士: きみぃー、行ったことあるの?ヨーロッパの街並みというならまだ判るけど。
助手: いや、もちろんイメージっすけど。にしてもすごくないですか?まるでカートゥーン映画のグラデーションですね。
博士: 「都市をある一貫したデザインシステムのもとにおく」。ひらたく言えば建物も道路も公園も、建物を取りまく環境をデザインすることによって、この幕張ベイタウン(※1)は多摩ニュータウンや南大沢などのベッドタウンとは違った21世紀型の街並みを実現したんじゃ。
助手: では、意外と新しいということですね。屋敷もさぞかし立派だったんでしょうね。街自体があるひとつのテーマに沿ってできあがっているイメージですよね。さて、どこから見て回るんですか?
博士: まずはこの町の中心部へと進んでみよう。
助手: はかせ、この集合住宅にはひとつとして同じ建物がありませんね。どれも特徴的で異なったカタチをしていますよ。
博士: その通り、このベイタウンは従来のような団地型の街ではなく、「都市を住宅でつくる」というコンセプトで有名都市デザイナー、建築家がデザインを手がけたまさに、夢のような空間なのである!
助手: なるほど、この開放的な感覚はいわゆる隔たりのなさから来ているんでしょうね。建物や通り、公園がすべて一体化しているような感じ・・。どこからでも出ていかれ、どこからでも入ることができる。
博士: もうひとつの開放的なイメージはなんと言っても、電信柱のないすっきりとした街並みじゃ。
助手: あれ、そういえば一本も見てない。どこ行っちゃったんですか?まさか電波で・・!?
博士: アホ!地下に決まっとるじゃろ。世界の至る所でも美観を損ねないために電気を地下に通す都市は多いぞ。
助手: そうですよね、いかに綺麗な街並みでも、ツンツンと電柱が立っていたらちょっとがっかりしちゃいますよね。
博士: 戦後ニッポンはGHQによる都市再生のなかで、あまりに復旧を急ぎすぎたためこの、無電柱化を怠ってしまったんじゃよ。
助手: 詳しいですね、はかせ。どこで勉強したんですか?
博士: 常識です!知らない方がマズイぞ!おっ、見ろ、通りがアスファルトから御影石の石畳に変わったぞ。ここがベイタウンの目抜き通り「美浜プロムナード(※2)」じゃ。どことなくヨーロッパの街並みのようじゃろ?
助手: そう言われてみれば確かに・・。で、行ったことあるんですか、ヨーロッパ?
博士: ・・ここ、ココ見て!道路と歩道に段差がない!ガードレールもなく空間をすっきりみせる、この感じこそがヨーロッパなんだよ!
助手: ・・ま、いーですけど。身体の不自由な方や子供にも楽に行き来できる工夫ですね。はかせ、それとひとつさっきから気になることが。通りのコーナーに建つ住宅の壁面にモニュメントのような彫刻が張り付いているんですよ。何か意味がありそうなんですが・・。
博士: 聞いて驚くなよ、あれは12星座を表したモニュメントで、このプロムナード周辺の建物(パティオスと呼ばれている)の角に象徴的な外観として存在しているんじゃ!
助手: なーるほど!そうと判れば、さっそく自分の星座を探さなければ。
博士: こらこら、どこ行くんじゃ〜。つぎ行く場所があるってのに。
助手: うー、見つけられなかった・・。はかせ、この公園ゴルフ場のような起伏ですね。ひょっとしてこれ、古墳だったり?幕張で大発見か!?
博士: あのね〜、ここ幕張ベイタウンはすべて埋め立て地なんです。どうしたらそこに古墳ができるわけ?
助手: あ、そうでしたっけ?あれ、ここ校庭じゃないですか?授業してますよ。
博士: そう、打瀬小学校(※3)。ここに連れて来たかったんじゃ。
助手: ぼくら公園にいませんでしたっけ?って、公園と学校を隔てるフェンスがないじゃないですか!?
博士: そう、言うなればオープンスクール。公共の広場として校庭が開放されているイメージだろ。
助手: ほんとだ、買い物袋下げたお母さん連中がベンチで和んでたり、こっちでは授業でサッカーしてるし、学校と地域の日常に隔たりがありませんね。
博士: 建築集団シーラカンスのデザインした学校なんじゃ。ワシもこんな環境で勉強したかったなぁ。一際目を引くこの円筒形、あれが体育館。打ちっ放しのコンクリートがオシャレじゃろ。
助手: うらやましいですね。吹き抜けで校舎全体がサンルームのように開放的な空間だし。こんな環境で育ったらグレたりしませんよね、きっと。
博士: もうひとつ有名建築家のデザインした建物がある。スティーブン・ホール(※4)じゃ。
助手: 日本で集合住宅をふたつも手がけた、あのスティーブン・ホール・アーキテクツの作品ですか?是非、見ておきたい!行きましょ!
博士: どうじゃ、他の建物に比べてここは、外観のイメージは単調なRC構造といった感じだろ。
助手: 確かに無機質な感じがしますね。ここは中庭に入って行かれますね。おお、この銅板の集会所、中庭の池!無表情であるのに、まったく圧迫感がありませんよ。
博士: 中庭と建物を隔てる黒塗りのコンクリートと緑の笹のコントラストが美しい!じつは湖の囲みのスペース、地下の駐車場の明かり採りと排煙の用途を兼ねておる。
助手: 穏やかな水のせせらぎ、笹の葉のこすれる音。いいですねぇ〜、住みたい!5年後には。
博士: ぷぷ・・、5年後!?
助手: なんすか、「ぷぷ・・」って失敬な!くそ、絶対売れてやる!というより、はかせ!アンタを今すぐにでも超えてやる!
博士: なにを〜、次回こそ勝負ですよ。ばっちり予習してきてやる!うおぉ〜燃えてきたぞー!!

博士にハッパを掛けられ(!?)助手がますますやる気になってきたところで、今回はおしまい。次回をお楽しみに!

今週の建材

外壁を彩る建材・タイル
外壁を彩る建材・タイル すぐれた耐久性と強さを持ちながら、安らぎに満ちた美観を住空間に与えるタイルは、マンション外壁に好まれる建材のひとつ。粘土・陶石・長石などを細かく粉砕して、これを成形して高温で焼き固める。これに釉薬を塗り着色したものがタイルである。釉薬は焼き上げる段階でガラス質の皮膜に変化し表面を覆う。その歴史は古く、紀元前3500年頃エジプトで施釉タイルのようなものが造られ、その後もアッシリアの神殿遺跡から出土した多彩色のテラコッタタイル、イスラム建築のモスクにはモザイクタイルと、世界中の至るところでタイルは古来より使用されてきた建材だ。


無駄demo知識

○幕張ベイタウン街路の地下には共同溝を設け、ゴミは空気輸送により処理施設に送るシステムがとられている。また電力、電話、CATVケーブルなどすべて地下に引いている。
○週間朝日(2003.2.21号)の特集「住みたい街人気ランキング」調べによると、平均推計年収800万円以上の街で堂々第一位に選ばれた。ちなみに分譲当初は数百倍の人気だったとか。
○美浜プロムナード周辺の各街区(パティオス)外観に建てられた12星座のモニュメントは外壁だけでなく建物のコーナー、入口の生け垣などさまざまな位置に設置されている。



補足de知識

※1 幕張ベイタウン

1985年「幕張新都心都市施設基本計画」により、幕張新都心を21世紀にふさわしい都市として整備していくため交通・環境・都市整備の具体案が作成された。千葉県幕張の業務市街地やメッセが誕生し、その後、隣接する住宅街は従来型の団地ではない21世紀型の住宅地として開発された。これが「住宅で都市を造る」というコンセプトの幕張ベイタウンである。街路スペースにさまざまな演出を施すことで街の風景に変化と特徴を持たせ、人が心地よく働き、学び、遊び、憩う都市づくりを目指した。ベイタウンの外側には超高層、中に行くほど低層の集合住宅を配し、内側に公園や緑地、公共施設を配する工夫がなされている。1995年3月に入居開始となった幕張ベイタウンの当時の人口は約2,000人、現在ではおよそ7倍にまで膨れあがった。

左:それぞれの街区により特徴的な建物が建ち並ぶ
中:街の中心部は低層の建物がつづく
右:奥に見えるのは幕張新都心の業務市街地

※2 美浜プロムナード

幕張ベイタウンの賑わいを最も実感できるメインストリート。パリ6区やドイツピースバーデン、スイスのチューリッヒといった欧州の街並みのように住宅の1階に設けられたオープンカフェが人をつなぐ社交場であるように、このプロムナードも住宅から一歩外へ出ると、街の賑わいが目の前に拡がっている。御影石の車道・歩道には段差がなく、オープンな街路空間を演出している。「ベイタウン祭り」では数々のイベントが、またクリスマスシーズンにはイルミネーションで住民だけでなく来街者を楽しませてくれる。

左:1階部に設けられた商店スペース。歩道も広くとってある
中:建物の外壁には12星座のレリーフが(ふたご座)
右:車道と歩道には段差がなくバリアフリーな環境

※3 打瀬小学校

平成7年(1995)幕張ベイタウンの街開きとともに開校。21世紀のライフスタイルを目指した街と一体化し、街に開かれ校門もフェンスもないオープンスクール。建築家集団シーラカンスによる設計は千葉市優秀建築賞(1995)のほか数々の賞を受賞している。校舎内は吹き抜けが多用され、打ちっ放しのコンクリート壁、充分な採光がとれる大きな窓と開放的な空間。教室と廊下の仕切りはなく、すべての施設にバリアフリーの精神が徹底されている。

左:街に開かれた校庭、学生たちはどこからでも教室へと行ける
右:ガラス張りの開放的なクラス

※4 スティーブン・ホール(STEVEN HOLL)

1947年アメリカワシントン州生まれ。ワシントン大学建築学部卒業後ローマ、ロンドンにてヨーロッパの近現代建築を学び、1976年スティーブン・ホール・アーキテクツ設立。幕張ベイタウン11番街(1996)のほかネクサス・ワールド集合住宅(1991)と日本で集合住宅を2つも完成させた、世界的アーキテクト。その他アメリカ、オランダ、中国と氏の現象学的な集合建築は世界の都市に佇んでいる。

左:無機質な雰囲気の中にデザイナーの意匠が込められたファサード
中:中庭の池から銅板の集会所を望む
右:穏やかで居心地のよい中庭


今週の「ツウ」快ふしぎ発見!

今週の「ツウ」快ふしぎ発見!
住民の安全を守る緊急通報装置。
メッセ大通りに建つ一見、横断歩道のボタンのようなこの装置。思わず押してしまわないように。
このボタンを押すと警察にダイレクトコールがつながるしくみだ。警察庁のモデル事業「安全・安心モデル街区」として全国十街区を指定。千葉県内では美浜区ひび野をはじめ、この打瀬ベイタウン地区の公園やマンション街など計5か所に設置した。防犯灯のカメラを見ながら警察官は通報者に適切な指示ができるしくみ。


散歩de探訪録

≫vol.01 横浜・赤レンガ倉庫
≫vol.02 お台場・ビーナスフォート
≫vol.03 鎌倉・円覚寺
≫vol.04 多摩・コカ・コーラ多摩工場
≫vol.05 国会議事堂
≫vol.06 会津・大内宿
≫vol.07 黒部ダム
≫vol.08 草津温泉郷
≫vol.09 ベイブリッジ
≫vol.10 小江戸・川越
≫vol.11 浜離宮恩賜庭園
≫vol.12 東京大学
≫vol.13 東京駅
≫vol.14 銀座
≫vol.15 等々力
≫vol.16 江の島
≫vol.17 横浜中華街
≫vol.18 2週連続企画〜江戸東京たてもの園:その1
≫vol.19 2週連続企画〜江戸東京たてもの園:その2
≫vol.20 幕張ベイタウン
≫vol.21 横浜ベイサイドマリーナ
≫vol.22 浅草・仲見世通り
≫vol.23 東京都庁
≫vol.24 東京湾アクアライン・海ほたる
≫vol.25 横浜港大さん橋国際旅客ターミナル
≫vol.26 総集編 長い散歩のあとに・はかせインタビュー



ライタープロフィール

◎アドバイザー:《羅針盤》
HP ⇒http://www.geocities.jp/dm97032/works/top.htm
建築家の異色ユニット。
自らの事務所を持ち、建築家として建物のプランニング・設計する側ら、オリジナル家具・インテリア小物や雑貨などのデザイン制作を担当するなど幅広く活動中。「明日の生活を建築・インテリアで改革」と豪語(笑)する、自然愛好家たち。
◎文:平野星良(ひらのせいら)