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2004.02.11
散歩 de 探訪 -街・たてもの 歩いて見える新発見- 「江戸東京たてもの園」

vol.19 2週連続企画!!モダン建築と茅葺き民家の共演!「江戸東京たてもの園:その2」
JR中央線「武蔵小金井駅」北口よりバス5分、西武新宿線「花小金井駅」よりバス5分 開園:9:30〜16:30(入園は16:00まで)月曜定休(月曜が祝日又は振替休日の時はその翌日)観覧料:一般400円、65歳以上200円、大学生320円、中学・高校生(都外)200円 TEL:042-388-3300  HP:http://www4.ocn.ne.jp/~tatemono/

助手: はかせ、東ゾーンでは思いのほか時間をかけてしまいましたね。
博士: 看板建築はいくら語っても語りきれないほどだったなー。でもま、急がばなんとかで行こうよ。
助手: いいですけど、そんなことしてたら閉園時間になっちゃうって!今回もしっかりお願いしますよ。まずはセンターゾーンを通って西側に向かいましょう。おや、たいそう古めかしい門ですね。江戸時代のものでしょうかね?
博士: これは大名屋敷の表門をもして大正時代に造られた「伊達家の門(※1)」!今の白金のあたりにたてられていたんじゃ。
助手: では、意外と新しいということですね。屋敷もさぞかし立派だったんでしょうね。
博士: 大正時代の麻布白金付近は上層階級、ブルジョアな人々の邸宅街だったそうだから、この門もかなり立派なランドマークだったろうな。
助手: はかせ、門柱の上見てください!瓦に家紋がついてますよ。
博士: あれは冠木(かぶき)といって柱の上に載せられた大きなはり材なんじゃ。そして「竹丸に雀紋」あれが宇和島藩伊達家の家紋!二本の竹で雀を囲むという意匠を施した紋なのだ。
助手: でも、あの家紋新しいのと古いのがありませんか?微妙に色もカタチも違ってますけど・・。
博士: ある程度はイミテーションで補修したんだろう。多少の差異はご愛敬ってことで。さ、つぎ西ゾーン行くぞい。
助手: はかせ、山の手通りに沿ったこの辺りの建物、わりと現代のものに近いですね。大正から昭和にかけてのモダンな雰囲気が漂っていますよね。
博士: 瓦屋根や平屋造りなど日本の伝統的な様式に、巧いこと欧風のモダンさを折衷させておる。建築に関わる人間なら是非、訪れたい一軒がここ「前川國男邸・まえかわくにおてい(※2)」!
助手: あの巨匠ル・コルビジェに師事し、日本の近代建築の発展に貢献した前川大先生の自邸ですか!?感動もんっすね。お宅拝見できるなんて。
博士: では、さっそくお邪魔しますか。
助手: 門から玄関までのアプローチ、シンプルでステキですね〜。玄関もずいぶん小さいですね、昔の日本人は小柄だったんだなあ。
博士: まあまあ、中に入って。
助手: おぉ〜!?なんすか、この広い吹き抜けのリビング!天井高っかーい。しかも南側一面の窓で採光ばっちり!美しすぎますよ!
博士: この邸宅が竣工された1942年はまさしく戦時体制下。建築資材が制限され入手困難な時代だった。さらに木造建物建築統制規則(1939)によって、延べ床面積100平方メートル以上の建築は法律によって禁止されていたんじゃ。そういった困難な状況のなかでこの家は建てられておる。
助手: 間取りはすごくシンプルですよね。リビングをはさむ格好で寝室と書斎。でもこの簡明さがとっても心地いい。
博士: リビングからロフト風の2階部へつづく階段のダイナミックな配置、南側の一面のガラス。シンプルな機能美に撤するコルビジェの哲学がよく反映されておる。
助手: はかせ、この家に住みたくなってきましたよ、マジで。
博士: ワシも。2階を製図台並べてオフィス兼自宅で!休日はリクライニングチェアを庭に出してコーヒー片手に読書。可愛い娘が「パパ、遊んで」なんて・・・。
助手: はかせ〜、想像いっちゃい過ぎですよー。
博士: あ〜、いい夢見た気分!さーてお次いってみますか。今度はどーんと時代を遡って江戸時代の農民生活!
助手: 西ゾーンの果ては一気に印象が変わりますね。芽葺き(※3)民家ばかり。
博士: 国分寺崖線を憶えているか?
助手: ええ、たしか等々力渓谷を散策したときに出てきましたね。世田谷南部の段丘崖のあたりのエリアもそう呼ばれていましたね。
博士: その通り!この「綱島家・つなしまけ(※4)」は世田谷区岡本の起伏のある土地を利用して畑作をしていた農家なんじゃ。たてもの園の芽葺き民家の中で最も古い江戸時代中期の建築じゃ。
助手: 軒がとても低いんですね。この土間の雰囲気って癒されますよね、燻されたこの匂いをかぐと思い出しちゃうんです。田舎の祖父母の家に行った夏休みの想いで、蝉の声・・。ああ、懐かしい・・。
博士: 感傷に浸ってる最中悪いんですけど、説明いいですか〜?土間と広間の境に大黒柱があるじゃろ。これは長方形断面の材木を使用した五平(ごひら)と呼ばれる。周囲は土壁がまわり閉鎖的な造り。天井を張らないのも古民家の特徴のひとつなのだ。これと対照的な一軒がこの奥にある「吉野家・よしのけ(※5)」。
助手: 古民家の比較っておもしろそうですね。いってみましょう。
博士: どうじゃ、こちらの芽葺き屋根のほうがやや高いだろ?そして特徴的なのがこの、土台の上に柱が立つ基礎形式。現代の建築様式のルーツが見て取れる。
助手: 縁側が周囲をまわっているせいか、とても明るく開放的な印象を与えてますね。
博士: 式台つきの玄関みた?むくり破風に「鶴と雲」の装飾板がついておる。欄間のデザインもこだわっておるし、民家にしてはとても格式が高いと想わんか?
助手: 確かにそうですね。先ほどの「綱島家」には見られなかった要素ですね。
博士: 囲炉裏が台所と土間にそれぞれあることをみても、近所の人が来たときの接待として、つまり自分たちの生活だけでなく、人を迎える空間様式へと移行していく変遷を感じ取ることができる。
助手: さすがはかせ!目の付けどころが違いますね!
博士: あのね、このぐらい当たり前に感じるようになって欲しいわけ、キミに。
助手: あはは・・ま、これからですからワタクシ!それよか、今夜は炉端焼きにしませんか?
博士: おっ、いいね!囲炉裏をかこんで昔の生活を体感しに行きますか!

園内すべて廻るのにすっかり一日かかってしまい、腹ペコなふたりがいつものようにごはん談議になってしまったところで今回はおしまい。時間をみてゆっくりご来園下さい。

今週の建材

驚異的な堅牢力と抗菌性、優れた資材・竹
驚異的な堅牢力と抗菌性、優れた資材・竹 イネ科の「タケ亜科」に属し、丈夫で柔軟性があり、古くから家庭用品や民芸品の材料などさまざまな用途で使用されている。断面は船やレーシングカーのボディに使われるFRP(繊維強化プラスチック)の繊維構造と同じ役割の構造組織を持つ。堅牢で強靭なだけでなく耐久性、弾力性、低伸縮性にも優れた資材。また、抗菌や防カビ効果にも優れている。これらの特性を活かし、古民家の茅を葺く前の下地組に竹は使用されている。


無駄demo知識

○たてもの園では約170人のボランティアが活動している。各建物に詳しいガイドのほか紙芝居、火鉢の火起し、似顔絵のスケッチなど新しい活動は次々と登場している。
○園内北側樹林ゾーンに沿ってつづく武蔵野の道にはさまざまな野外展示物が点在している。「前川國男邸」の裏手には多摩川台9号古墳のレプリカがある。(多摩川台古墳に関してはvol.15参照)
○「吉野家」の裏手にある井戸は現在も稼働中。取っ手を握り4,5回上下していると地下からごぼごぼ水がわき上がり、蛇口から一気に吹き出す様を体感できる。(飲み水ではありません)



補足de知識

※1 伊達家の門

旧宇和島藩伊達家が東京に居住するために建てた屋敷の表門で、現在の港区白金に大正時代に建てられた。総けやき造りの建築は三間一戸。本柱と背面の控え柱の間に組まれた筋違(すじかい)は、伝統的な日本建築には見られないもので、この門が近代建築であることを明示している。正面向かって右側のみに起り屋根の番所がおかれ、左右対称の造りとなっていることがわかる。

左:江戸時代の大名屋敷の様子をうかがい知ることができる
右:「竹丸に雀紋」の家紋。右側がレプリカ

※2 前川國男

1905年新潟生まれ。東京帝国大学建築科を卒業後、フランスに渡り近代建築の巨匠ル・コルビジェに師事し、そのインターナショナルデザインを日本に浸透させ、日本近代建築の発展に貢献した建築家。帰国後はレーモンド建築設計事務所を経て、1935前川國男建築事務所を設立。半世紀にわたる建築家としての活動の間に公共建築を中心に多数の建物を設計。日本建築学会大賞、毎日芸術賞、1963年には国際建築家協会連合オーギュスト・ペレー賞など受賞。代表作に東京文化会館・東京都美術館・弘前市民会館など。

左:前川國男邸裏手。五寸勾配の立派な屋根が特徴的
中:庭からの木洩れ日が心地いいリビング
右:室内の電化製品も当時のままに

※3 茅葺き屋根

かやとは屋根を葺くのに用いる草本の総称であり、チガヤ、スゲ、ススキなどが一般的。茅葺き屋根の耐年数は20年とも30年ともいわれているが、風雨や鳥、虫の影響により年々やせ細っていく。そのため腐食した部分を取り除き、新しい茅を差し込む「差し茅」と呼ばれる補修が必要となる。茅屋根の保護でもっとも大事なことは風通しと燻煙(くんえん)である。囲炉裏の煙は虫害から茅を守ると考えられており、天井のない構造はこのようなところで役立っていた。

左:「差し茅」作業中の屋根(写真は吉野家)
右:新しい茅が取り付けられ、その後燻煙が行われる

※4 綱島家

多摩川をのぞむ台地上にあり、広間型の間取りを持つ芽葺きの民家。板敷きの広間の西側に南北の続きをもつ構成の平面は、広間型三間取りと呼ばれる構成。北側の座敷を除いては天井が無く、縦横に組まれた梁(はり)が露出されていて吹き抜けの感を与えている。広間を囲む大黒柱は長方形の断面を持つ五平(ごひら)と呼ばれる材を使用している。格子窓(ししまど)は18世紀初頭の関東平野の民家に共通してみられるもので、換気、採光のほか外部からの獣の侵入を防ぐ役割をもっていた。

左:軒の低さが印象的。綱島家全景
右:閉塞感のある周囲の土壁

※5 吉野家

江戸時代後期に建てられた農家で、現在の三鷹市野崎が旧所在地。土台の上に柱が立つ基礎形式、縁側が各部屋を取りまき、全体的に開放的な空間の印象を与えているが、納戸のみ閉鎖空間となっている。平面は六室からなり間仕切りの線がちょうど十字型になる整形六間取りと呼ばれる。座敷と納戸の境に南に面して仏壇を置くスタイルは武蔵野の民家に共通する一般的な形式である。建物内では昭和30年代頃の農家の生活様式を再現している。

左:各部屋に縁側が設置されている
右:軒が高く採光がとれ、開放的な空間

今週の「ツウ」快ふしぎ発見!

今週の「ツウ」快ふしぎ発見!
軒先の雨垂れしっかり受けとめる、雨落ち。
茅葺き屋根軒下から垂れる雨の滴が土の地面にそのままあたると溝が掘れてしまう。これを防ぐために雨の落ちる地上面に小砂利を敷きつめ浸食を保護している。また「雨打ち」「雨垂り」「雨垂れ落ち」とも呼ばれる。


散歩de探訪録

≫vol.01 横浜・赤レンガ倉庫
≫vol.02 お台場・ビーナスフォート
≫vol.03 鎌倉・円覚寺
≫vol.04 多摩・コカ・コーラ多摩工場
≫vol.05 国会議事堂
≫vol.06 会津・大内宿
≫vol.07 黒部ダム
≫vol.08 草津温泉郷
≫vol.09 ベイブリッジ
≫vol.10 小江戸・川越
≫vol.11 浜離宮恩賜庭園
≫vol.12 東京大学
≫vol.13 東京駅
≫vol.14 銀座
≫vol.15 等々力
≫vol.16 江の島
≫vol.17 横浜中華街
≫vol.18 2週連続企画〜江戸東京たてもの園:その1
≫vol.19 2週連続企画〜江戸東京たてもの園:その2
≫vol.20 幕張ベイタウン
≫vol.21 横浜ベイサイドマリーナ
≫vol.22 浅草・仲見世通り
≫vol.23 東京都庁
≫vol.24 東京湾アクアライン・海ほたる
≫vol.25 横浜港大さん橋国際旅客ターミナル
≫vol.26 総集編 長い散歩のあとに・はかせインタビュー



ライタープロフィール

◎アドバイザー:《羅針盤》
HP ⇒http://www.geocities.jp/dm97032/works/top.htm
建築家の異色ユニット。
自らの事務所を持ち、建築家として建物のプランニング・設計する側ら、オリジナル家具・インテリア小物や雑貨などのデザイン制作を担当するなど幅広く活動中。「明日の生活を建築・インテリアで改革」と豪語(笑)する、自然愛好家たち。
◎文:平野星良(ひらのせいら)