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2004.02.04
散歩 de 探訪 -街・たてもの 歩いて見える新発見- 「江戸東京たてもの園」

vol.18 2週連続企画!!古き良き街並みにタイムスリップ「江戸東京たてもの園:その1」
JR中央線「武蔵小金井駅」北口よりバス5分、西武新宿線「花小金井駅」よりバス5分 開園:9:30〜16:30(入園は16:00まで)月曜定休(月曜が祝日又は振替休日の時はその翌日)観覧料:一般400円、65歳以上200円、大学生320円、中学・高校生(都外)200円 TEL:042-388-3300  HP:http://www4.ocn.ne.jp/~tatemono/

助手: はかせ、ついにやって来ましたね。
博士: この企画が始まった当初から、いつか訪れねばと思っていた。たてもの好きには涙もんのテーマパーク、それが「江戸東京たてもの園(※1)」じゃ〜!
助手: テーマパーク!?いったい、ここには何があるんですか?はかせ、もっと詳しく教えてくださいよ。
博士: 江戸の昔から大火事、震災、戦災・・・。東京では多くの歴史的建造物が残念なことに失われてきておるだろ。今日に至っても社会・経済の変動により、こうした文化遺産はその姿を消すいっぽうである。
助手: たしかにもったいない話ですよね。超高層の隣りでも、価値ある建物をしっかりと保存して、巧いこと古さと新しさを融合させる世界都市はたくさんあるのに。
博士: 区画整理や再開発、いろいろ問題はあるだろうけど文化的価値の高い建造物を取り壊すなんて、気の毒な話じゃのう・・。しか〜し!!そんな問題を解決してくれたのが、この「たてもの園」なんじゃ!
助手: はかせ・・自分のことのように張りきってますね!
博士: 現存した本物の家屋は観るばかりか、ここでは実際に入ることだってできる。すなわち、当時の雰囲気を肌で体感できるんじゃ!あぁ、もうガマンできん、おっさき〜!
助手: すべてが実物っていうのがいいですね。ご年輩の方々には懐かしく、若い人たちには新鮮に映るけど、本物はやっぱりジーンと重みがありますよねー。ちょっと、はかせー。待ってくださいよ〜!
博士: まずは東ゾーンを中心に廻るぞ。昔の商店・銭湯が建ち並び下町風情をそのまま持ってきたようじゃろ。
助手: そういえば・・どこかで観たようなイメージがありますね。まるで『千と千尋の神隠し』に出てくる「不思議の街」のようです!
博士: そう、あの独特な街のイメージを印象づけているものこそ看板建築(※2)の町並みなのじゃ!
助手: 大胆な和洋折衷と個性あるファサード(建物の正立面)。建物の前面が軒の出ない平坦な造りになっているのが大きな特徴。でしたよね?
博士: 教科書棒読みばりの模範解答、ありがとう。ホントに判ってる?まずは昭和初期の建築様式「武居三省堂(たけいさんしょうどう)」。(※3)
助手: タイル張りの壁面、ひさしや戸袋周りは銅板仕上げのファサードですね。この何とも言えない「のっぺり感」がいいですね。
博士: 武居三省堂の一番の特徴は店内じゃ。左右の壁面をチェ〜ック!
助手: おお、もの凄い!あたり一面、棚・棚・棚!
博士: 文具店の卸売り業を営んでいたこの店では、筆や墨を保管する商品棚を造り付けで設置した。およそ350の桐箱が筆の種類ごとに効率よく収納されておるんじゃ。
助手: しかし、よくそのままに移築してきましたねー。では、この「植村邸(うえむらてい)」にはどんな特徴があるんですか?ここも看板建築ですよね。
博士: いかにも!前面を銅板で覆っており特徴的な看板建築ではあるが、見た感じ洋風の建物に見えんか?
助手: そう言えば2階部分のバルコニーのところ、和風の造りですよね。ナイス和洋折衷!
博士: バルコニーって、おいおい、あれは縁の刎高欄(はねこうらん)といって、高欄を構成する横材の端部を突き出して架木の先端を反り上げた出桁造りの仕上げだ。時代劇などでよく目にするだろうが。
ささ、つぎ行くぞー!「子宝湯(こだからゆ)」行こー。見よ!この特徴的な入母屋(いりもや)造りの屋根、その下に張り出した玄関の唐破風(からはふ)。荘厳な佇まいだろう?
助手: 難しすぎて意味が判りませんよー。
博士: 要するに昭和初期の銭湯建築の代表作なんじゃよ。唐破風というのは寺社などによく見られる中央がむくり上がり、左右が反ったスタイルの屋根のこと。中はいかがかな?
助手: はかせ、どっちに入る気ですか?ちょっと気になる『女湯』の文字。いいんですよねココなら。ちょっと覗いてみませんか?
博士: コラ、鼻の下のばして何考えとるんじゃ!では、失敬して・・。脱衣所の天井ずいぶん高いな。おおっ、折り上げ格子天井(※4)じゃないか。リッチ気分を味わうためなのか?
助手: 番台の肘掛けにまで彫刻が施されていますよ。贅の限りを尽くしたって感じですね。
博士: 伝統的な日本建築に思わせておいて、今度は急にタイル張りの浴槽。天井の高窓や古典建築のような柱、こっちは西洋の雰囲気がつよいな。でも、銭湯って言ったらやっぱり・・。
助手: 富士山のペンキ絵!ニッポンの心ですね。天窓からいい感じに夕日が射し込んで・・。あれ、はかせ今何時ですか?
博士: ん、3時。っていっかーん!まだ、半分しか廻ってないぞ!ゆっくりしてられん。
助手: ひえー、たてもの園広すぎですよー。

二人が下町風情に時間を忘れてタイムスリップしてしまったところで今回はおしまい。次回は魅惑の西ゾーンへ(日没前にご紹介できることを期待して・・)。

今週の建材

日本の伝統技術・簓子下見張り(ささらこしたみばり)
日本の伝統技術・簓子下見張り(ささらこしたみばり) 花市生花店(はないちせいかてん)や小寺醤油店(こでらしょうゆてん)の外壁に見られる板張り構法。階段状に切れ目を入れた押縁(簓子)にあらかじめ板を張りつけ、これを柱と柱の間にはめ込む。小舞壁の腰部分を保護するためなどに用いられた。大正期以降日本各地でこの構法は用いられ、当時の代表的な日本家屋のスタイルとなった。


無駄demo知識

○東ゾーン下町中通りの空き地には土管や古い電信柱、掲示板やゴミ箱を置いて「はらっぱ」を再現している。ここでは竹馬・輪回し・ベーゴマなど懐かしい遊びを体感できる。
○武居三省堂の店先陳列台の下には、隠された地下室への入口がある。地下では商品の荷解きや荷造りが行われていた。脇から覗いて見ることができる。
○銭湯のペンキ絵といったらおなじみの富士山、現在営業中の銭湯でも450軒程度のペンキ絵が残っているというが、そのうち約9割が富士山を画題にしている。ちなみにペンキ絵師は都内に4人残るばかり。



補足de知識

※1 江戸東京たてもの園

都立小金井公園内に平成5年(1993)江戸東京博物館の分館としてオープンした野外博物館。敷地面積は約7ヘクタールの広大な園内には現在、27棟の復元建造物が建ち並ぶ。近世初頭から現代まで都内に所在していた、文化的価値の高い歴史的建造物は様々な事情により、現地保存が不可能になりつつある。そうした建物を移築し、復元・保存さらに展示公開することで、貴重な文化遺産をじかに体感することができる。たてもの園の出入り口となる「ビジターセンター(旧光華殿・きゅうこうかでん)」や資料館、「高橋是清邸(たかはしこれきよてい)」など歴史を伝えるセンターゾーン。商家・酒屋に銭湯など下町の風情を残す東ゾーン。山の手通り面するモダンな住宅、その奥には藁葺きの民家がつづく西ゾーン。と、園内は3ゾーンに分かれそれぞれに特徴的な建造物が集められている。また、園内ではボランティアの方々による建物のガイドを受けることもできる。

左:たてもの園の入口は旧光華殿(きゅうこうかでん)より
中:外観だけでなく、実際に建物の中に入って観賞できる
右:大人は幼少を思い出しながら、子供は新しい遊びの発見を(「はらっぱ」)

※2 看板建築

木造建築の正面に衝立のように平面的なファサード(建築の正立面)がとりついた形式の建築。主に昭和初期の木造商店建築の様式で、一般にファサードはタイル張りのほか、モルタル、銅板などでアール・デコに代表される洋風の装飾を施したもの、戸袋に和風の紋様を付けたものなどバラエティに富み、下町商人の意気と見栄のあらわれを象徴したものと言える。実際に看板が取り付けられているわけではなく、のっぺりとした板状の外観、モルタルや銅板製の装飾がまるで看板のように見えることからこの名がついた。

左:代表的な看板建築。ファサードのみに装飾が施されている
中:四季による花々の装飾が銅板で施されている(花市生花店)
右:のっぺりとした板状の外観だがそれぞれがオリジナリティに溢れている

※3 武居三省堂

明治初期創業の文具店。昭和初期の神田須田町に建てられた店舗併用住宅。一般的に間口が広く奥行きの浅い町屋が江戸の商店建築の特徴だが、この店の店舗部分は間口に対して奥行きが深い造り。圧巻は店内左右壁面に立つ、造り付けの商品棚。効率よく商品を収納できる工夫がなされている。

左:整然と並べたれた店内の商品
右:造り付けの商品棚はその数350。中には筆が収納されている

※4 子宝湯と格子天井

昭和4年(1929)に足立区千住元町に建てられた、東京の銭湯建築を代表する建物。当時、一軒の銭湯を建てる相場は2万円程度であったが、子宝湯は4.5万を費やし、贅を尽くした造りとなった。脱衣所の天井には、木材を縦横に組み正方形が連続する形に仕上げた折り上げ格天井。このスタイルは一般的に高い格式を示している。浴槽の天井部は大きく持ち上げられており、高窓を設けることで自然採光・換気を満たしている。

左:豪華なファサードの子宝湯
中:格式の高さを示す折り上げ格天井
右:全面タイル張りの浴室と富士山のペンキ絵


今週の「ツウ」快ふしぎ発見!

今週の「ツウ」快ふしぎ発見!
植村邸のファサードには無数の小さな穴が空いている。これは東京大空襲の際に焼夷弾の散弾でできた穴。幸いにも直撃を免れたこの建物は、歴史を物語る生き証人として今日、このたてもの園にそのままの姿で移築されてきた。前面の銅板が住人を散弾の恐怖から守ることとなった。


散歩de探訪録

≫vol.01 横浜・赤レンガ倉庫
≫vol.02 お台場・ビーナスフォート
≫vol.03 鎌倉・円覚寺
≫vol.04 多摩・コカ・コーラ多摩工場
≫vol.05 国会議事堂
≫vol.06 会津・大内宿
≫vol.07 黒部ダム
≫vol.08 草津温泉郷
≫vol.09 ベイブリッジ
≫vol.10 小江戸・川越
≫vol.11 浜離宮恩賜庭園
≫vol.12 東京大学
≫vol.13 東京駅
≫vol.14 銀座
≫vol.15 等々力
≫vol.16 江の島
≫vol.17 横浜中華街
≫vol.18 2週連続企画〜江戸東京たてもの園:その1
≫vol.19 2週連続企画〜江戸東京たてもの園:その2
≫vol.20 幕張ベイタウン
≫vol.21 横浜ベイサイドマリーナ
≫vol.22 浅草・仲見世通り
≫vol.23 東京都庁
≫vol.24 東京湾アクアライン・海ほたる
≫vol.25 横浜港大さん橋国際旅客ターミナル
≫vol.26 総集編 長い散歩のあとに・はかせインタビュー



ライタープロフィール

◎アドバイザー:《羅針盤》
HP ⇒http://www.geocities.jp/dm97032/works/top.htm
建築家の異色ユニット。
自らの事務所を持ち、建築家として建物のプランニング・設計する側ら、オリジナル家具・インテリア小物や雑貨などのデザイン制作を担当するなど幅広く活動中。「明日の生活を建築・インテリアで改革」と豪語(笑)する、自然愛好家たち。
◎文:平野星良(ひらのせいら)